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広島高等裁判所 昭和62年(行コ)2号 判決 1996年3月28日

控訴人

広島市長(Y) 平岡敬

右訴訟代理人弁護士

宗政美三

右指定代理人

橋本昌純

榎戸道也

太田貞夫

森脇秀仁

神笠寛治

片山克彦

明松逸朗

吉原靖樹

松田幸登

大岩重貴

被控訴人

川本徳二(X)

(ほか一九八名)

右訴訟代理人弁護士

山田慶昭

理由

一  原判決中、被控訴人らの請求の趣旨第1、3項の訴えを却下した部分については、被控訴人らから不服申立てはなされておらず、当審における審判の対象とはならないので、以下においては、請求の趣旨第2項の請求の当否について検討する。

1  当事者間に争いのない事実と本件整理事業の経緯について

(1)  被控訴人らが、原判決添付換地処分通知一覧表記載のとおり同表記載の各土地につきそれぞれ所有権を有していること(同添付別表(一)記載の被控訴人については換地処分通知の名宛人から相続により権利を取得したことを含む。)は当事者間に争いがない(また、別紙当事者目録記載の肩書に訴訟承継人の表示のある被控訴人については一審原告である被承継人から相続により権利を取得したことが本件記録に照らして明らかである。なお、原判決添付換地処分通知一覧表記載の一審原告のうち、別紙当事者目録に同一当事者の基本番号の記載のない者は、一審原告及びその承継人において訴えを取り下げたものである。)。

(2)  控訴人広島市長が、昭和四四年一一月ころ、法八六条一項により、本件整理事業の換地計画を決定し、同年一一月一五日ころ、右換地計画に基づき被控訴人らを含む事業区域内の関係権利者に対し関係事項を通知して本件換地処分をなし、さらに、控訴人広島市長のその旨の届出に基づき広島県知事が昭和四五年一月九日に本件換地処分の公告(本件公告)をしたことについても当事者間に争いがない。

(3)  ところで、〔証拠略〕によれば、本件整理理事業の経緯については、原判決事実摘示欄の控訴人広島市長の主張四の1(同一六枚目裏五行目から二五枚目裏一〇行目まで)に記載の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  いわゆる二坪換地と違法性の有無

右1(3)の認定事実によれば、終戦後、戦災で焼失・破壊した日本の諸都市を復興させるため、昭和二〇年一一月五日、内閣総理大臣の直属機関として戦災復興院が設置され、同年一二月三〇日、「戦災地復興計画基本方針」(乙六の2)が閣議決定され、戦災復興事業の円滑な実施を図るための特別都市計画法(昭和二一年法律一九号)が制定されたこと、広島市は原子爆弾の投下により市の中心部が半径約二キロメートルにわたって焼失し、市街地が一面の廃墟と化していたが、昭和二一年一〇月九日に戦災復興都市の指定を受けたこと、控訴人広島市長も同年一月八日、広島市復興局を設置するなどして戦災復興事業としての本件整理事業の準備作業に着手していたが、昭和二二年一〇月三一日、「広島市東部復興土地区画整理設計書」(乙一三)を告示し、昭和二二年八月から同二四年三月までに換地予定地(特別都市計画法における呼称で、土地区画整理法上の「仮換地」と実質的に異ならないので、以下においては、特に断らない限り、仮換地と呼ぶ。)を発表するとともに逐次換地予定地の指定を実施していったこと、ところが、事業開始後にインフレが激化する中で連合国軍総司令部から日本政府に対してドッジ構想による経済安定九原則が示され、インフレ防止のための均衡予算を採ることが強く要請されたこと、そこで、政府も、従前の戦災地復興都市計画を見直すことになり、昭和二四年六月二四日、「戦災復興都市計画の再検討に関する基本方針」(乙三の2、3参照)を閣議決定し、同日付で建設省都市局長名で「戦災復興都市計画再検討実施要領」(乙三の3参照)を各都道府県知事に通達して街路、公園緑地等の計画と土地区画整理事業の施行区域の縮小と事業の促進を求めたこと、そのため、控訴人広島市長は事業計画の再検討を迫られ、昭和二七年三月三一日、公園等の公共施設の縮小を盛り込んだ広島平和記念都市建設計画(乙四一の2参照)を決定し、右計画変更によって未指定地(仮換地として指定されない土地)一四万一二一九・五〇平方メートルが新たに生じたこと、昭和三〇年三月、従前の設計内容を右広島平和記念都市建設計画に適合させるために事業計画を変更したこと、同年四月一日から土地区画整理法(法)が施行されるとともに特別都市計画法は廃止され、本件整理事業は法三条四項の規定による土地区画整理事業として継続され、昭和四四年一一月ころ本件換地計画が決定され、同年一一月一五日ころ、本件換地処分がなされたこと、また、控訴人広島市長が、本件整理事業において土地台帳の地積記載を基準として本件換地計画及び換地処分を行ったため、施行地区全体の実測面積から公共用地の実測面積を差し引いた宅地全体の実測面積と台帳面積(各筆の地積を合計したもの)との差(いわゆる測量増地)が最終の事業計画において七万六二二六・八九平方メートル生じたことが認められるところ、被控訴人らは、控訴人広島市長が、右未指定地や測量増地の処分のため、未指定地の一部を仮換地とし、広島市有地を分割して一、二坪(大半は二坪で一部が一坪)の微細な土地を多数作り出して仮換地の元地としたうえ、九九平方メートルないし九九〇平方メートルの増換地(いわゆる二坪換地)をして売却処分したのは法八九条の照応の原則に反するばかりか憲法二九条にも違反する旨主張する。

ところで、〔証拠略〕によれば、控訴人広島市長は、公共施設の縮小に伴う計画変更により生じた前記未指定地の処理方法について種々検討したが、右未指定地が発生した昭和二七年ころには既に対象となる仮換地上に関係市民らが建物を建てて居住し、さらに、昭和三〇年三月ころには右使用状況はさらに進んで仮換地上の建物の建築や道路工事等がほぼ八割程度完成した伏態であり、いずれの時点においても従前の事業計画を全面的に変更して仮換地指定をやりなおすことは仮換地上に建築されていた建物の除去、移転を伴うなど社会的、経済的影響も大きく、事実上、実現不可能であったこと、また、未指定地をすべて保留地にして処分することはその代金が本件整理事業の費用に充当され、事業施行者の費用負担が軽減される結果になるものの、公共施設の整備のために減歩された従前地の所有者には利益が直接還元されることにはならないため、過大宅地の減歩を緩和するとともに過小宅地の救済を図ることとし、特別都市計画法施行令四四条の規定による「特別の事情がある」場合に当たるものとして関係権利者への利益を金銭で還元する方法をいわゆる二坪換地として案出したこと、そして、未指定地一四万一二一九・五〇平方メートルのうち、三万六〇四四・六〇平方メートルを過大宅地の減歩を緩和するに充て、四万三九六六・三〇平方メートルを保留地(法九六条によれば換地の価額の総額が従前地の価額の総額を超える必要があるが、特別都市計画法四四条は右要件を必要としていなかった。)として売却してその代金を事業費に充当し、残りの六万一二〇八・六〇平方メートルにつき、広島市の市有地三三二七・〇七平方メートル(五三二筆)を従前地(過小宅地)とし、広島市に対し右未指定地六万一二〇八・六〇平方メートルを仮換地として指定し、その選定した売却対象者(主として本件整理事業の従前地の所有者)に売却することによって右売却対象者に仮換地を指定し、終局的には換地による所有権を取得させる旨のいわゆる二坪換地を行い、その売却代金は従前地の所有者らにその権利価額に応じて配分することとしたこと、右によれば二坪換地の増歩率は平均約一八・四倍に及んでいること、右処分方法について、控訴人広島市長は、昭和二七年四月五日、土地区画整理委員会に諮って「過小宅地並過小借地の取扱準則」を一部改正し(乙二四の1ないし3)、その意見を聞いて決定し、同年一一月四日に作成した「広島市東部復興土地区画整理地区内の市有地売却処分内規」〔乙三二。なお、広島平和記念都市建設計画がなされた後は、右内規に代えて「広島市平和記念都市建設事業東部復興土地区画整理事業施行地区内の市有地売却要綱」(乙四)が作成された。〕により、原則として一般競争入札により、落札については一筆毎に土地区画整理委員会(法施行後は土地区画整理審議会)に諮ることとし、昭和二八年ころから売却を開始し、その後遅くとも昭和四五年ころまでに五三二筆を売却したこと、控訴人広島市長は、本件整理事業の施行区域内の従前地の所有者らに対して、右売却代金四億一〇六二万三四二六円から従前地とした市有地の権利価額一三六五万円と仮換地の評価額の合計額と従前地の価額の合計額の差額一億六〇一六万〇一六〇円を清算金として控除した残金二億三六八一万三二六六円を従前地の権利価額に応じて按分し、特別交付金として交付したこと、また、控訴人広島市長は、本件換地処分自体の法的根拠は法九一条一項の類推適用によるものと主張するところ、右措置については、上級行政庁である建設省も被控訴人川本徳二の昭和四三年三月五日付け照会に対して本件事業の置かれた社会的背景その他の諸事情よりみてやむを得ない措置であったと考えられ、当然には違法視できない旨回答していることがそれぞれ認められる。

右認定事実によれば、いわゆる二坪換地自体は、通常の換地の特例を定めた法九一条一項の過小宅地に対する換地の規定を類推適用して行われたものであるが、右規定は、本来、従前地に減歩を行い過小宅地となる虞れがあり、災害の防止や衛生の向上の見地から地積を適正にする特別の必要がある場合に増換地を含む特段の措置をとることを可能にしたものであって、もともと二坪程度しかない従前地に対し平均一八・四倍に及ぶ増換地をすることまで許容した規定とは到底認めがたく、二坪換地は右法条に反し、違法であるといわざるをえない。

しかしながら、二坪換地は未指定地の処理に関して案出された方法であるところ、(1)もともと、未指定地が発生したのは、本件整理事業開始後、インフレが激化する中で連合国軍総司令部から経済安定九原則か示されてインフレ防止のための均衡予算が要請され、政府も、従前の戦災地復興都市計画を見直すこととなり、公共施設の縮小を伴う計画変更を余儀なくされたことによるものであって、計画開始当時は予想できなかった社会、経済情勢の変化によるものであって、計画自身に瑕疵があったものではなく、本件整理事業の根拠となる法令にも変遷があり、控訴人広島市長に責められるべき事由があったものではないこと、(2)右未指定地が発生した時点において、従前の事業計画を全面的に変更して仮換地指定をやりなおすことは仮換地上に建築されていた建物の除去、移転を伴うなど社会的、経済的影響も大きく、事実上、実現不可能であり、かえって、本件整理事業の完成を遅滞させる結果となったこと、(3)未指定地の処理方法に関して保留地として売却する方法は事業施行者に有利となるが、従前地の所有者には直接の利益還元とならないため、右保留地としての売却の方法をとらずに従前地所有者に金銭で直接に利益還元する方法を検討した結果、採られた便法が二坪換地による方法であっで、右方法については土地区画整理審議会にも諮ったうえで実施されており、控訴人広島市長が右方法を選択したことがやむを得ない措置といわざるを得ないことなどの諸事情が認められることからすれば、二坪換地の違法性の程度は本件換地処分の取消事由とするに足りるものとは認めがたい。

なお、被控訴人らは、同様の戦災復興事業を行った全国の他の都市においても二坪換地をしたような例はないから、この点からも二坪換地は違法であるとの主張をするところ、なるほど、控訴人広島市長の実施した本件整理事業と広島県知事が同じ広島市の西部地区について実施した土地区画整理事業以外には同様の換地方法を採用した戦災復興都市の例が認められないことは被控訴人らの指摘するとおりであるが、弁論の全趣旨によれば、控訴人広島市長が、当時における他の戦災復興都市の例も検討し、種々検討の末、二坪換地による未指定地の処分方法を案出したものであると認められ、他の戦災復興都市においても計画変更に伴う事後処理方法として統一した方法がある訳ではなかったことが窺われるから、特に原爆の投下により市街地が全くの廃墟と化し、その一体的な復興の要請が高かった広島市において控訴人広島市長が新たに案出した二坪換地による未指定地の処分方法が違法であるとはにわかにはいいがたいものであって、被控訴人らの右主張は採用できない。

そうすると、二坪換地の違法を理由に本件換地処分の取り消しを求めることはできないというべきである(広島高判平四・八・二六行集四三・八・九・一〇六五、最高裁二小判平六・七・一八参照)。

3  被控訴人ら主張の本件換地処分のその余の違法事由の有無

(1)  本件換地計画の平均減歩率と憲法二九条違反の有無

〔証拠略〕によれば、広島市の本件整理事業における平均減歩率(公共保留地を合算した減歩地積一一四万一七〇五・七〇平方メートルを整理前宅地の台帳地積四八二万九〇九二・六九平方メートルで割ったもの)は二割三分六厘であること、本件整理事業と同様に戦災復興事業として行われた全国の他の都市の区画整理事業における平均減歩率は別紙のとおりであることがそれぞれ認められ、右各平均減歩率を対比すれば、広島市における本件整理事業の平均減歩率がことさらに過大であるということはできず、また、憲法二九条二項が「財産権の内容は公共の福祉に適合するように法律で定める」と規定して所有権に内在的制約があることを明言しており、さらに、土地区画整理事業が公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るものであり、法の立法趣旨自体も健全な市街地の造成を図り、もって公共の福祉の増進に資することにあること(法一、二条参照)などからみても、土地区画整理事業において土地所有者は相当な範囲内で減歩を受忍すべきであるから、被控訴人らの主張する右減歩についての違法事由があるものとは認めがたい。

(2)  未指定地の発生と換地計画の変更の要否

被控訴人らは、控訴人広島市長が、本件整理事業において未指定地を発生させ、換地計画を変更せずに処分したのは違法と主張するところ、既に2でみたように未指定地の生じた理由は、戦後の急激なインフレの進行と当時占領下にあった連合国軍総司令部の要請に基づく政府の戦災復興事業の基本方針の変更に伴う計画変更によるものであって、控訴人広島市長の責めに帰しえない事由によるものというべきであるから、被控訴人らのこの点に関する主張は採用できない。

(3)  測量増地の発生と違法性の有無

被控訴人らは本件換地処分の基準地積は実測面積によるべきにもかかわらず公簿面積によったため測量増地が生じたのは違法である旨主張し、本件整理事業において土地台帳の地積記載を基準としたため、最終の事業計画において七万六二二六・八九平方メートルの測量増地が生じていることは既に2で認定したとおりであるが、なるほど、土地区画整理事業の施行に当たっては、従前地の実測面積を基準としてその後の計画、処分を実施するのが合理的であることはいうまでもないが、本件整理事業は、戦災で灰塵と帰した広島市の戦災復興事業として実施され、その事業が緊急を要し、施行地区も広範囲に及んでおり、仮に、実測面積を基準にするとすれば莫大な費用と労力を要し、測量に要する期間も相当期間を要すること等を考慮すれば計画の実施を著しく遅滞させることも明らかであるから、控訴人広島市長が本件整理事業において原則として台帳地積により基準地積を決定する方法(なお、〔証拠略〕によれば、控訴人広島市長は、実測地積が台帳地積より三割以上大きい者についてはその申出により地積訂正手続をとることができる旨を公告していたことが認められる。)を採用したことは違法といえず、したがって、その後の実測により台帳地積との差が生じ、いわゆる測量増地(前記七万六二二六・八九平方メートルは施行地区面積五八二万五二四一平方メートルの約一・三パーセントにすぎない。)が発生したことも違法とはいえないというべきであるから、被控訴人らのこの点に関する主張は採用できない。

(4)  増換地と違法性の有無

被控訴人らは、大多数の地主が減歩されているのに一部の地主が現地換地により地積も増加しているのは公平の原則に反する旨主張するところ、増換地を含む地積の適正化の要件が法九一条、九二条に定められており、弁論の全趣旨によれば、控訴人広島市長のなした本件換地処分が右規定の要件に反するものとは認めがたいから、被控訴人らの右主張は採用できない。

(5)  飛換地と違法性の有無

被控訴人らは本件換地処分においてなされた飛換地が合理的でないと主張するところ、弁論の全趣旨によれは、本件整理事業における飛換地(原判決添付換地処分通知一覧表参照)は、概ね従前地が一〇〇メートル道路その他の幹線道路、国道二号線敷地、平和公園の予定地とされたものであることが認められ、右認定事実に照らすと、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るために実施された本件整理事業において現地換地によらず右飛換地が生じたこともやむをえないといわざるを得ず、被控訴人らのこの点に関する主張は採用しがたい。

(6)  広島市有地に対する増換地と違法性の有無 被控訴人らは、広島市の普通財産である市有地につき約一〇万九一〇〇平方メートルもの増換地がなされているのは違法と主張するところ、〔証拠略〕によれば、本件整理事業においては学校、消防署、保健所、庁舎等の広島市の公用または公共用財産である敷地について増換地がなされていること(右以外のいわゆる普通財産についての増換地の実例はにわかに認めがたい。)、右増換地は法九五条による特別の宅地に関する措置として実施されていること、本件換地処分に関しては土地区画整理審議会の同意を得ており、控訴人広島市長から清算金として三億二九七五万三〇四〇円が支払われていることがそれぞれ認められ、右認定事実によれば、被控訴人らのこの点に関する主張は理由かない。

(7)  保留地の設定と本件換地処分の違法性の有無

被控訴人らは本件整理事業において事業費を捻出するため前記未指定地や測量増地から四万三九六六・三〇平方メートルもの保留地か認められているが、事業費は施行者の負担とするのが原則であるから、これを一般地主に転嫁するのは許されず、また、保留地を本件公告により権利を取得する以前に時価よりはるかに低廉な価格で処分したのは法一〇八条に違反し、その計上された売却代金の金額四億円も法九六条に違反する旨主張する。

ところで、〔証拠略〕によれば、本件整理事業において、保留地が土地区画整理審議会の同意を得て法九六条の要件に従い定められたこと、右保留地は本件公告前に換地処分による所有権取得を停止条件として法一〇八条一項及び施行規程に定められた処分方法により適正に処分されたこと、その代金は本件整理事業の事業費に充当されたことが認められるから、被控訴人らの前記主張はいずれも採用できない。

(8)  国道二号線敷地、平和公園、一〇〇メートル道路等の無償取得と違法性の有無

被控訴人らは本件事業区域内の国道二号線敷地、平和公園、一〇〇メートル道路等の公共施設は本来国、県、市などの管理者が取得につき正当な対価を支払うべきであるのに無償取得したのは憲法二九条に違反する旨主張するところ、土地区画整理事業の目的は公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図ることにあり、事業計画上、環境の整備改善を図り、交通の安全を確保し、災害の発生を防止し、その他健全な市街地を造成するために必要な公共施設(道路、公園、広場、河川その他政令で定める公共の用に供する施設をいう。)及び宅地に関する計画が適正に定められている必要があるとされ(法一条、六条四項、二条五項参照)、必要な公共施設が土地区画整理事業の施行地区から除外されることは法も予定しているうえ、右公共施設の整備により付近の私有地の地価も上昇することが期待できるのであるから、被控訴人ら主張の公共施設を広島市等が無償取得したことが憲法二九条に違反するとはいえず(憲法二九条二項も財産権が公共の福祉による内在的な制約下にあることを明言している。)、被控訴人らの右主張は採用できない。

(9)  本件整理事業の各筆の清算評価時点と評価方法と違法性の有無

本件整理事業の清算評価時点は昭和三〇年三月ころとされているところ、被控訴人らは本件整理事業の清算評価を現実の支払時の時価を基準になすべき旨主張するところ、前記1(3)の認定事実によれば、控訴人広島市長は、街路、公園も概ね整備され、仮換地上に建物その他の工作物が移転され、電柱・ガス管・軌道・上下水道の移設工事もほぼ完成した昭和三〇年三月ころを評価基準時として、いわゆる路線化式評価法により宅地を評価することとし、「土地評価基準」を設け、評価員の意見を聞いて施行地区全体の路線価を最終決定し、従前地及び換地の各評価額とその差額となる清算金を算出したことが認められ、弁論の全趣旨によれば、右清算金は本件換地処分がなされた昭和四四年ころに控訴人広島市長から被控訴人らを含む従前地の所有者に支払われていることが認められ、清算金が従前地と換地の各土地の位置、地積、土質、水利、利用伏況、環境等を総合的に考慮して関係権利者の不均衡を金銭的に是正する趣旨の金員である(法九四条参照)ことに照らせば、控訴人広島市長が本件整理事業の清算評価時点を本件整理事業の工事概成時点である昭和三〇年三月ころとしたことは合理的な理由があるというべきであり、その評価方法にも違法な点があるとも認めがたく、被控訴人らのこの点に関する主張は採用できない。

(10)  被控訴人らに対する各換地と法八九条(照応の原則)違反の有無

被控訴人らは、本件換地処分につき換地と従前地とを比較すると換地が従前地より劣っているから法八九条に違反すると主張するところ、右規定は、換地計画において換地と従前地のそれぞれの位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等とを照応させることにより、従前地とほぼ同一の条件をもって各換地が公平に定められることを目的とするものであるから、右諸要素を総合的に勘案してもなお従前地と著しく条件が異なる場合に初めて換地処分が違法となるというべきところ、被控訴人らに対する換地が前記諸要素を勘案してもなお従前地と著しく条件が異なるものとは認めがたく、被控訴人らのこの点に関する主張は理由がない。

(11)  本件整理事業における清算方法と公平の原則違反の有無

被控訴人らは、本件整理事業における清算方法が不合理で公平の原則にも違反する旨主張するが、〔証拠略〕によれば、控訴人広島市長は、本件整理事業については「広島平和記念都市建設事業東部復興土地区画整理事業施行規程」(乙二)に基づき作成した「広島平和記念都市建設事業東部復興土地区画整理事業換地準則」(乙七)に基づいて換地を行うこととし、宅地の評価は路線価式評価法によるものとし、「広島平和記念都市建設事業東部復興土地区画整理事業土地評価基準」(乙一)を作成したうえ、評価員の意見を聞いて従前地及び換地の価額を評定し、徴収ないし交付すべき清算金を適正に算定していることが認められ、被控訴人らの右主張は採用できない。

(12)  換地予定地的仮換地と本件換地計画の違法性の有無

被控訴人らは、控訴人広島市長が本件換地計画前に換地予定地的仮換地を決定しており、換地計画に基づいて仮換地を定める必要があるとする法に違反するとの主張をするところ、既に2においてみたように、本件整理事業は戦災復興事業として開始されたものであって、仮換地の指定のほとんどは特別都市計画法一三条一項に基づいて「土地区画整理のために必要がある」ものとして実施されていたものであって、弁論の全趣旨によれば、その後の土地区画整理事業法下における仮換地の指定も同法九八条一項の「土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のために必要がある」ものとして実施されていたものと認められるから、いずれにしても適法な仮換地の指定であるということができ、被控訴人らの右主張は採用できない。

二  結論

以上によれば、控訴人広島市長がなした本件換地処分はいずれの取消事由も認められず適法であるというべきところ、右換地処分が違法であるとし、行政事件訴訟法三一条により右換地処分が違法である旨を宣言したうえで右請求を棄却する旨の事情判決をなした原判決は不当であるから、これを変更して被控訴人らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九六条、八九条、九三条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荒井眞治 裁判官 古川行男 岡原剛)

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